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CASE-055 ― ネット発祥・海外の伝承

ベン・ドラウンド(BEN Drowned)

大学生がフリーマーケットで手に入れた『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』の中古カートリッジには、前所有者「BEN」のセーブデータが残っていた。プレイするうちにゲームは異常な振る舞いを見せ、やがて存在はネット上へ逃げ出していく。2010年に4chanで連載され、動画とARGで拡大したクリーピーパスタの代表作

01 ― 概要

地域アメリカ(英語圏インターネット)
起源2010年
拡散の経路4chan / YouTube / 専用ウェブサイト(ARG) / まとめ・紹介記事
現況クリーピーパスタというジャンルの基礎を作った代表作として位置づけられ、2020年に完結した後も「呪われたゲームカートリッジ」系作品の原型として参照され続けている
来歴の確かさ作者・初出ともに特定できる。作者は米国の大学生だったアレクサンダー・ホール(ペンネームJadusable)で、2010年9月7日から15日にかけて、4chanのオカルト板/x/に第1部を連載した。作者自身が創作であることを公言しており、来歴の確かさは高い
テーマ呪われたゲーム、ARG、クリーピーパスタ
関連する話ラベンダー症候群 / ポリビアス / スレンダーマン

02伝承の内容

大学生の「Jadusable」は、フリーマーケットで不気味な老人から、ラベルに「Majora」とだけ書かれた灰色のカートリッジを譲り受ける。『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』の中古ソフトだった。中には前の持ち主のものらしい「BEN」という名前のセーブファイルが残っていた。削除しても、ゲーム内の人物たちは主人公を「BEN」と呼び続けた。

やがてゲームは通常では起こりえない振る舞いを見せ始める。住民の消えた街、逆再生される音楽、そして「哀しみのエレジー」で生み出される主人公そっくりの像が、カメラの死角で少しずつ近づいてくる。プレイヤーは体験を文章に綴り、ゲーム映像の動画とともに掲示板へ報告し続けた。

背景として浮かび上がるのは、カートリッジの前の持ち主とされる少年ベンの存在である。少年は数年前に溺れて亡くなったとされ、その意識のようなもの「BEN」がゲームに宿ってプレイヤーを弄ぶ。やがてBENはプレイヤーのパソコンに干渉し、掲示板への投稿さえ乗っ取り始める。

最終的にBENは、カートリッジのファイルを共有しようとした読者たちの手を経て、インターネット全体へ解き放たれてしまう。「そんなこと、しなければよかったのに(You shouldn't have done that)」という作中の文句とともに第1部は幕を閉じ、物語は教団を名乗るウェブサイトを舞台にした読者参加型の第2部へ続いた。

03伝播と変遷

2010年9月
第1部「呪われたカートリッジ」が4chanの/x/板に連載され、動画つきで爆発的に拡散する
2010年9月〜2011年7月
第2部「月の子どもたち」が専用ウェブサイトでARGとして展開。その後、作者の経済的・技術的事情で休止する
2011年
読者の交流フォーラムWithin Hubrisが開設され、派生作品の投稿が続く
2020年3月
『ムジュラの仮面』発売20周年に合わせ第3部「覚醒」が開始。同月だけで200万を超える訪問者を集める
2020年10月31日
第3部の完結をもって、10年にわたったシリーズが終了する

バリエーション

第2部「月の子どもたち」第1部の後、作者のYouTubeアカウントに隠された暗号を読者が解読し、教団「月の子どもたち(Moon Children)」のウェブサイトへ到達した。サイトは作中の3日周期に合わせてリセットされ、読者の行動で物語が分岐するARGとして展開した(2010〜2011年)
第3部「覚醒」約9年の休止を経て2020年3月に再開された完結編。実写映像なども織り交ぜ、読者の集団的な選択で進行が変わる形式を取り、同年10月31日に完結した
派生「呪われたカートリッジ」物本作の成功後、実在のゲームを題材に「異常な中古ソフトを入手した」という形式を模したクリーピーパスタが多数生まれ、ゲーム系ホラーの定型となった

04確認できること・できないこと

確認できる事実

  • 作者はアレクサンダー・ホール(Jadusable)で、2010年9月7日〜15日に4chanの/x/板へ第1部を連日投稿したこと
  • 投稿にはYouTubeに上げられたゲームプレイ動画が併用され、公開後2日で10万回以上の閲覧を集めたこと
  • 第2部は専用サイトyoushouldnthavedonethat.netを舞台に2010年9月から2011年7月にかけて展開し、作者の事情で休止したこと
  • 第3部が2020年3月に再開され、同年10月31日に完結したこと

確認できない部分

  • タイトル「Ben Drowned(溺れたベン)」の正確な命名経緯(溺死にいたる経緯は作中でも断片的にしか語られず、諸説ある)
  • 連載当時、どこまでの読者が実話と信じていたか(同時代の反応は掲示板の記録に断片的に残るのみ)

後付けとみられる脚色

  • 「BENの正体は実在の少年の霊」という読みは作中の設定であり、実在の事件に基づく証拠はない。作者は創作であることを公言している
  • 連載当時、実話だと信じて拡散した読者も多かったが、これは作者の想定した演出の効果であり、「実話」扱いは伝承化の過程で生じたものである

05AI分析

社会的背景ゲーム世代の共有記憶

2010年前後、子どもの頃にNINTENDO64で遊んだ世代が大学生になり、ネット上で思い出を語り合う文化が成熟していた。『ムジュラの仮面』自体、3日間のループや不気味な仮面など、シリーズでも異色の陰鬱さを持つ作品である。懐かしさと違和感の同居する素材を選んだことで、読み手の個人的な記憶が物語の恐怖を増幅する構造が生まれた。中古ソフトという入手経路も、前の持ち主の痕跡への想像を誘う。

科学的視点映像は作れる、という前提

作中の「異常なゲーム映像」は、エミュレータや改造コードを用いて実際に制作されたもので、技術的には再現可能な演出である。重要なのは、作者が創作と明言しているにもかかわらず、連載形式と動画の「証拠」性が虚構を実話らしく見せた点にある。文章だけの怪談に比べ、動く映像は検証可能性の錯覚を与えやすい。裏を返せば、映像があること自体は実在の証拠にはならず、この作品はその教訓を初期に示した例でもある。

なぜ広まったのか読者を巻き込む設計

連載は「助けを求める投稿者」という一人称の形式を取り、読者は傍観者ではなく相談相手として物語に参加した。動画・隠しファイル・暗号と手がかりが段階的に置かれ、考察が次の拡散を生む循環が成立した。第2部では読者の行動が物語を実際に分岐させ、参加そのものが体験になった。公開直後2日で10万回を超える閲覧が集まった背景には、掲示板文化の即時性と、検証・考察を楽しむ読者層の厚みがあった。

横断比較ポリビアス、ラベンダー症候群との違い

同じゲームをめぐる伝承でも、収録済みのポリビアスは「実在しないゲーム」の噂であり、ラベンダー症候群は実在のゲームへの健康被害の噂だった。これに対しベン・ドラウンドは、作者と初出が完全に特定できる創作でありながら、拡散の過程で伝説として受容された。スレンダーマンと並び、ネット時代の怪異が「作者のいる創作」から出発して伝承化する過程を示す代表例であり、両者の差異は創作と伝承の境界を考える手がかりになる。

06出典・参考文献

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