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CASE-029 ― 都市伝説・ネット発祥・解明・判明

ラベンダー症候群

『ポケットモンスター 赤・緑』のシオンタウンのBGMが、子どもたちに健康被害をもたらしたという噂。2010年に英語圏のネットで生まれた創作が、「日本で起きた実話」として世界中に広がった。

01 ― 概要

地域英語圏(発生)/日本(舞台とされる土地)
起源2010年(初出とされる投稿)
拡散の経路投稿サイト(Pastebin) / 掲示板(4chan) / 動画サイト / ゲームメディア
現況クリーピーパスタの代表例として定着。検証記事の対象にもなっている
解明状況誤解・デマと判明
来歴の確かさ噂そのものの初出は2010年の投稿サイトへの掲載とされ、拡散の系譜はかなり辿れる。ただし匿名の投稿であり作者は特定できない。「1996年に日本で実際に起きた」とされる部分については、当時の報道や公的記録が確認できず、裏付けがない
テーマゲーム、音楽、子ども、隠蔽説
関連する話ポリビアス / スレンダーマン / くねくね

02伝承の内容

『ポケットモンスター 赤・緑』(1996年)のシオンタウンは、死んだポケモンの墓が並ぶ塔のある町で、そのBGMは不協和な高音の重なる無機質な曲だった。この町をめぐり、発売直後の1996年春、日本でこのBGMを聴いた子どもたちに頭痛や不眠などの不調が相次ぎ、深刻な被害まで出たと語られる。

原因とされたのは、BGMに仕込まれた音響上の仕掛けである。大人には聞こえない高い音が含まれていた、左右の耳に異なる音を聞かせる「バイノーラルビート」で脳に作用した、だから子どもだけが影響を受けた、と説明される。会社は初期の製品をひそかに回収して音を差し替え、欧米版では問題の成分が除かれている、といった隠蔽の筋書きも添えられ、話は告発のような体裁を取っていく。

話は「検証」の遊びを伴って広がった。BGMをスペクトログラムという音の分析画像に変換すると、作中の幽霊の姿や「今すぐ立ち去れ」という文字が浮かぶ、という画像や動画が出回った。開発者が特定の版を選んだ子を狙ったという説や、内部告発を名乗る証言など、裏付けのない「新証拠」が次々に足され、噂は調べるほど奥が深くなる構造を持つようになった。

しかし、1996年の日本でそのような事件が起きた記録は、報道にも公的な統計にもない。この話がネット上に現れたのは2010年のことで、英語圏の投稿サイトに載った匿名の創作が起点とされる。遠い日本の過去の出来事という設定が確かめにくさとなり、創作と実話の境目を曖昧にした。噂の寿命は、その確かめにくさに支えられている。

03伝播と変遷

1996年2月27日
『ポケットモンスター 赤・緑』が日本で発売される。シオンタウンとそのBGMが登場する。
1997年12月16日
テレビアニメの演出により多数の視聴者が体調不良を訴える事件(ポケモンショック)が実際に起きる。後の噂の着想源になったと推測されている。
2010年
投稿サイト(Pastebin)に、シオンタウンのBGMによる被害を語る匿名のテキストが掲載される。確認できる初出とされる(日付を2月とする資料もある)。
2010年代前半
掲示板(4chan)などを通じて拡散し、「ラベンダー症候群(Lavender Town Syndrome)」の名が定着する。スペクトログラムの「検証」画像や動画も出回る。
2015〜2016年
KotakuやKill Screenなど英語圏のゲームメディアが検証記事を掲載し、創作であることを前提に「なぜ信じられたか」が論じられるようになる。
2020年代
英語圏発の話が日本にも逆輸入され、ポケモンをめぐる代表的な都市伝説・クリーピーパスタとして定着している。

バリエーション

スペクトログラムの幽霊BGMをスペクトログラムにかけると幽霊の姿やアンノーンの文字で書かれた警告文が現れる、という派生。後に、分析に使われた音源自体が加工されたものだったと指摘されている。
特定バージョンを狙ったという説開発者が『赤』版を選んだ子どもたちを苛立たせるために音を変えた、とする版。開発者の実在しない発言や内部文書が「証拠」として添えられることがある。
洗脳実験説BGMは子どもを洗脳するための実験だったとする陰謀論型の派生で、架空の存在や作中設定を横断する大きな物語に組み込まれることがある。

04確認できること・できないこと

確認できる事実

  • 噂の初出は2010年に投稿サイト(Pastebin)へ掲載された匿名のテキストとされ、1996年当時の報道・公的記録に、該当する事件は確認できない
  • シオンタウンのBGMと町の不気味な雰囲気は実在し、発売当時からプレイヤーの間で印象的な場所として語られてきた
  • 1997年にはテレビアニメの演出で多数の視聴者が体調不良を訴えた実際の事件(ポケモンショック)があり、噂の着想源になったと評論家に推測されている
  • 続編や海外版でシオンタウンのBGMのアレンジが変わったことはあるが、健康被害を理由とする回収や差し替えの公式発表は確認できない

確認できない部分

  • 1996年にBGMが原因で子どもの健康被害が相次いだ、という主張そのもの(裏付ける記録がない)
  • 初期版のBGMに、大人に聞こえない有害な高音やバイノーラルビートが仕込まれていたという説
  • 会社や行政が事件を隠蔽したという説

後付けとみられる脚色

  • スペクトログラムに現れるという幽霊や警告文の画像(加工された音源によるものと指摘されている)
  • 実在しない開発スタッフのインタビューや内部告発者の名前を挙げる版

05AI分析

社会的背景「ゲームが子どもを害する」という不安の受け皿

この噂が受け入れられた土台には、1997年のポケモンショックという実在の事件がある。アニメの演出で多数の子どもが実際に体調不良を訴えた出来事は、「ポケモンの刺激が子どもに害する」という物語に現実の足場を与えた。さらに1990年代は、テレビゲームが子どもの生活に入り込むことへの大人の不安が強かった時期でもある。得体の知れない新メディアへの警戒感が、実在しない事件の話にも「ありそうだ」という感触を与え続けた。

科学的視点バイノーラルビートという言葉の使い方

バイノーラルビートは、左右の耳にわずかに違う高さの音を聞かせると、うなりのような音が知覚される実在の現象である。ただしそれは両耳に別々の音を届けることが前提で、ゲームボーイの小さなスピーカーから出る単一の音源で再現するのは難しい。また、高い音が子どもに聞こえやすいこと自体は事実でも、健康被害との因果関係を示す証拠はない。一方で、BGMの不協和な響きが不安感を生むことは音楽心理の面から指摘されており、「不気味さ」の実感と「有害さ」の主張は分けて考える必要がある。

なぜ広まったのか反証できない形と、参加できる「検証」

噂は「会社が隠した」「初期版だけが危険だった」という設定によって、証拠がないことを逆に隠蔽の証拠として読み替える構造を持っている。現在の製品を調べても反証にならないため、話は閉じない。さらにスペクトログラムという誰でも試せる「検証」の手順が用意されたことで、読者は受け手から検証者へと回り、画像や動画の形で二次的な証拠を量産した。舞台が読者の多くにとって遠い日本だったことも、確かめにくさを長持ちさせた。

横断比較ポリビアスと並ぶ「ゲームの害」の噂

ゲームが子どもに害を与えたとする噂としては、本サイトのポリビアスと対になる事例である。どちらも、実在しない事件を「当局や会社が隠した」という筋書きで支え、公的記録にないこと自体を根拠に転用している。違いは、ポリビアスが1980年代のアーケードゲームを舞台に口コミで育ったのに対し、こちらは2010年のネット投稿から短期間で世界に広がった点で、創作が実話の顔を獲得する速度そのものが時代を映している。

06出典・参考文献

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