トップ > 全件一覧 > エレベーターで異世界へ行く方法
CASE-030 ― 儀式・ネット発祥

エレベーターで異世界へ行く方法

エレベーターを決まった作法で乗り継ぐと、人のいない異世界にたどり着くという儀式型の伝承。日韓のネットを経て世界に広がり、後年、実在の事件と結びつけて語られるようになった。

01 ― 概要

地域日本・韓国(発生とされる)→世界
起源2008年頃の日本の掲示板投稿が最古級の記録。その後2010〜11年に韓国で流通
拡散の経路掲示板(2ちゃんねる) / 韓国のポータルサイト / 翻訳ブログ / 怪談サイト・動画
現況儀式型の都市伝説(危険なゲーム)の代表例として定着。映像作品の題材にもなった
来歴の確かさ英語圏の調査記事により、2008年の日本の掲示板(2ちゃんねる)への投稿まで遡れることが示されている。「韓国発祥」という通説は、2010〜11年に韓国のサイトで流通した経路を指す面が大きく、どちらか一方を起源と断定することはできない。儀式の内容が実在の事件より前から存在していた点は確かである
テーマエレベーター、異世界、禁忌
関連する話ひとりかくれんぼ / チャーリー・チャーリー / きさらぎ駅

02伝承の内容

「エレベーターで異世界へ行く方法」と呼ばれる儀式がある。10階建て以上の建物で、人のいない時間に一人でエレベーターに乗り、決められた作法のとおりに階を巡っていく。作法を正しく終えると、車両はやがて指示とは違う動きを始め、たどり着いた階の扉の向こうには、人の気配のない「異世界」が開けているという。

作法の途中で立ち寄る階では、正体不明の若い女性が乗り込んでくることがあるとされる。彼女に話しかけたり、顔を見たりしてはいけない。異世界に着いた徴候としては、携帯電話などの電子機器が使えなくなる、窓の外の街並みから明かりが消えている、遠くに赤い十字架が見える、といった描写が語られる。

初期の版では、たどり着いた先で何が起きるかも、どうやって戻るかも書かれていなかった。話が国境を越えて翻訳されていく過程で、帰還や中止の作法、異世界の様子の描写が付け加えられ、「ゲーム」としての体裁が整えられていった。手順を間違えれば戻れなくなる、という警告もこの過程で強調されていった要素である。

2013年、米国のホテルで起きた死亡事件で、エレベーター内の防犯カメラ映像が公開されると、この儀式を実行していたのではないかという憶測がネット上で広がった。しかし儀式自体は事件より前から日韓のネットで流通しており、事件との結びつきを示す証拠はない。この結びつけは、映像の強い印象に、後から物語が貼り付いたものとみるべきものである。

03伝播と変遷

2006年6月
東京・港区でエレベーターの死亡事故が発生。調査記事では、エレベーターへの不安が高まった出来事として、伝承成立の背景に挙げられている。
2008年11月22日
日本の掲示板(2ちゃんねる)に、現在確認できる最古級の版が投稿される。到着後の描写のない簡素な型だった。
2010〜2011年
韓国のポータルサイト(Daum、Naver等)で流通する。帰還の作法を含む版が現れる。
2011年末
韓国語の資料をもとにした英語翻訳がネットに現れ、英語圏への拡散が始まる。
2013年
米国のホテルで起きた死亡事件の映像が公開され、この儀式と結びつける憶測が広がる。関連を示す証拠は示されていない。
2014年以降
英語圏の怪談サイトで「最も危険なゲーム」の一つとして紹介され、儀式型伝承の代表例として定着する。
2023年
この伝承を題材にした映画が米国で公開されるなど、映像作品のモチーフとして使われ続ける。

バリエーション

日本語版の初期型到着した後の描写も帰還の方法もなく、「その先は分からない」で終わる短い型。後の版に比べて記述が簡素で、儀式というより断片的な噂に近い。
韓国で流通した版帰還の作法や、途中でやめる方法が比較的早い時期に整えられたとされる版。英語圏への翻訳はこの系統を経由したものが多い。
英語圏で整えられた版電子機器が止まる、遠くに赤い十字架が見えるなど、異世界に着いたことの「兆候」が具体的に列挙されるようになった版。

04確認できること・できないこと

確認できる事実

  • 2008年の日本の掲示板に、原型とみられる投稿があることが調査記事で示されている
  • 2010〜2011年に韓国のポータルサイト等でこの伝承が流通していたことが確認できる
  • 英語への翻訳は2011年末から現れ、英語圏の怪談サイトを通じて広がった
  • 2013年の事件との関連づけは事件後に生じた憶測であり、結びつきを示す証拠は示されていない

確認できない部分

  • 起源が韓国か日本かの断定(両言語で早期の記録があり、単一起源を特定できない)
  • 儀式を行って異世界に着いたという体験談の真偽
  • 2006年に東京で起きたエレベーターの死亡事故がこの伝承の直接の起源だという説(調査記事が示唆する推測の域を出ない)

後付けとみられる脚色

  • 2013年のホテルでの死亡事件と結びつける語り(儀式の存在自体は事件より前であり、裏付けはない)
  • 帰還・中止の作法や異世界の詳細な描写(初期の版にはなく、翻訳と拡散の過程で増補された)

05AI分析

社会的背景日常の密室への不安

舞台は、高層化した都市生活の日常設備であるエレベーターそのものだ。2006年に東京で起きたエレベーターの死亡事故は、「閉じた箱が自分の意思と無関係に動く」ことへの不安を社会に可視化させた。調査記事は伝承の成立背景としてこの事故に言及している。誰もが毎日使う設備だからこそ、そこに「別の世界への入口」という反転の物語が貼り付きやすかった。深夜の無人のビルという条件も、都市生活者の孤独な移動の時間と重なっている。

科学的視点偶然を徴候に変える設計

客観的には、エレベーターが指示と違う動きをする原因は、他の利用者の呼びや制御の仕組みなど、通常の範囲で説明できるものである。異世界への移動を示す証拠は存在しない。一方、一人で密室に乗り、緊張しながら同じ昇降を繰り返す状況は、単調さと不安で時間感覚や身体感覚を揺らしやすい。「誰もいないはずの階に止まる」といった日常の偶然も、手順を踏んだ直後には意味のある徴候として読み替えられる。儀式の設計自体が、偶然を意味に変換する装置になっている。

なぜ広まったのか手順書の形と、翻訳ごとの増補

この伝承の広がり方の特徴は、手順書の体裁そのものにある。読むだけでなく「実行できる」形で書かれているため、受け手はそのまま試す側に回れる。日本語の掲示板から韓国のサイトへ、さらに英語の翻訳へと渡る過程で、戻り方や中止の方法、異世界の描写といった「攻略情報」が増補され、ゲームとしての完成度が上がっていった。2013年の事件との結びつけは、この伝承に第二の拡散の波をもたらした。

横断比較ひとりかくれんぼとの構造の共通点

同じ儀式型の伝承である「ひとりかくれんぼ」と並べると、構造の共通点が目立つ。どちらも一人で手順を踏むこと、途中で出会う存在に話しかけてはいけないという禁忌、そして「間違えれば戻れない」という警告が核になっている。違いは舞台で、ひとりかくれんぼが自宅という私的な空間を使うのに対し、こちらはビルという公共の設備を舞台にする点で、都市のインフラそのものを怪異の入口に変える型になっている。

06出典・参考文献

← CASE-029 ラベンダー症候群CASE-031 赤い部屋 →