トップ > 全件一覧 > モモ・チャレンジ
CASE-044 ― ネット発祥・海外の伝承・解明・判明

モモ・チャレンジ

鳥のような女の画像とともに、メッセージアプリを通じて子どもに危険な行為を促す「チャレンジ」が存在するという触れ込みで、2018年に世界中へ広がった騒動。実体は確認されず、デマとモラルパニックの事例として記録された。

01 ― 概要

地域世界各地(発端は中南米とされる)
起源2018年
拡散の経路メッセージアプリ / SNS / 報道 / 警察・学校の注意喚起 / 動画サイト
現況デマとモラルパニックの代表例として定着。子どものネット利用への注意喚起の文脈で、今も言及されることがある
解明状況デマと判明
来歴の確かさ「チャレンジ」の実在を裏付ける証拠は、各国の警察や捜査機関、ファクトチェックの調査でも確認されなかったことが確定している。画像の出自(2016年に展示された日本の造形作品)も特定されている。一方、2018年7月に最初の「モモ」アカウントを名乗った人物は特定されていない
テーマSNS、デマ、モラルパニック
関連する話スレンダーマン / ロシアの睡眠実験 / チャーリー・チャーリー

02伝承の内容

2018年7月、中南米の報道を皮切りに、「モモ」と名乗るアカウントがメッセージアプリを通じて子どもに接触し、危険な行為を次々と指示する、という話が広がり始めた。その姿とされたのは、大きく見開いた目と不自然に広い口を持つ、鳥のような女の画像だった。拒めば脅される、という筋書きとともに、話は保護者の間に強い不安を呼んだ。

しかし、各国で警察や報道機関が確認を進めても、「チャレンジ」の実体を示す証拠は見つからなかった。被害と結びつけて報じられた事例も、捜査機関によって関連が確認されたものはない。インドの捜査当局は2018年8月の時点で、関連づけは根拠を欠くという見解を公表している。実在しない脅威が、注意喚起の形で国境を越えていった。

画像の出自もほどなく判明する。あの顔は、日本の特殊造形会社リンク・ファクトリーの相蘇敬介が手がけた彫刻作品「母鳥(姑獲鳥)」の一部を切り取ったものだった。2016年に東京の画廊で展示された、産女(うぶめ)をモチーフにした美術作品であり、「モモ」という名も、チャレンジとの関係も、作品の側には存在しなかった。

騒動は2019年2月に再燃する。子ども向け動画にモモが現れるという話が広がり、警察機関の警告や著名人の発信が相次いだ。しかし児童保護団体やネット安全機関は相次いで「デマである」と声明を出し、専門家は、実在しない脅威への警告そのものが子どもを不安にさせ、噂を増幅させると指摘した。モモは、怪異ではなく「噂そのもの」が不安を生む過程を示す事例になった。

03伝播と変遷

2016年
彫刻作品「母鳥(姑獲鳥)」が、東京・銀座のヴァニラ画廊の展覧会で展示され、写真がネットに掲載される。
2018年7月
中南米で「モモ」アカウントをめぐる報道が出始め、メッセージアプリ経由の「チャレンジ」の噂が広がる。アルゼンチンでは少女の死亡との関連が警察に疑われたが、確認はされなかった。
2018年8月29日
インドの捜査当局が、死亡事例とチャレンジの関連づけは根拠がないと表明する。各国警察の注意喚起が相次いだ。
2018年9月
「モモ」とされた電話番号の多くが使われなくなり、報道はいったん沈静化する。
2019年2月
子ども向け動画への出現説で再燃。北アイルランド警察が警告を出し、著名人の発信もあって世界的な騒動になる。
2019年3月
児童保護団体や専門家が相次いで「デマ」と声明を出す。作者の相蘇敬介が取材に応じ、作品が既に廃棄されていたことが報じられる。

バリエーション

先行する「ブルーホエール」との混同実在が確認されていない「危険なゲーム」の噂は、2016年頃から報じられた「ブルーホエール・チャレンジ」が先行する。モモの話はこの型を引き継ぎ、報道でも頻繁に並べて語られた。どちらも、組織的な運営者の存在は確認されていない。
子ども向け動画への出現説2019年には、子ども向け動画の途中にモモの画像が差し込まれている、という話が広がった。動画プラットフォーム側は、そのような動画の証拠は確認されていないと表明した。具体的な動画が特定されないまま警告だけが流通した点が、2018年の第一波と異なる。

04確認できること・できないこと

確認できる事実

  • 各国の警察・捜査機関のいずれも、「モモ・チャレンジ」による被害や、組織的な運営の証拠を確認できなかったこと
  • 画像が、2016年に東京のヴァニラ画廊で展示された相蘇敬介(リンク・ファクトリー)の彫刻作品「母鳥(姑獲鳥)」の一部であること。作者自身が2019年3月、作品は劣化のため2018年に廃棄したと明らかにしたこと
  • 2019年2〜3月に、北アイルランド警察の警告や著名人の発信をきっかけに騒動が再燃し、児童保護団体(NSPCCなど)が「デマである」と声明を出したこと
  • 動画プラットフォーム側が、チャレンジを宣伝する動画の証拠は受け取っていないと表明したこと

確認できない部分

  • 2018年7月に最初の「モモ」アカウントを名乗った人物と、その意図
  • 各地で報じられた個別の死亡事例と「チャレンジ」との因果関係(いずれも捜査機関による確認はない)

後付けとみられる脚色

  • 初期の報道で画像の作者とされた別の日本人作家の名前は誤報で、後に訂正された(作品はリンク・ファクトリーの相蘇敬介のもの)
  • 「モモ」からのメッセージを受けたという報告の多くは、騒動を知った第三者による便乗のいたずらや、又聞きだった可能性が後日の検証で指摘されている

05AI分析

社会的背景保護者の不安と新しいメディア

騒動の主な受け手は、子ども本人よりも保護者だった。子どもが親の目の届かないアプリや動画の中で危険にさらされているのではないかという不安は、子育てとテクノロジーの関係が変わる時期の社会に広く共有されていた。「得体の知れない相手が、家庭の中の端末を通じて子どもに接触する」という筋書きは、その不安の形そのものである。具体的な被害の確認より先に、警告が親から親へ、学校から家庭へと回覧されていった。

科学的視点検証の積み重ねとしての「不在」

この件で客観的に扱えるのは、「証拠の不在」が積み重なった過程である。警察は被害の申告を確認できず、捜査当局は関連づけを否定し、プラットフォームは該当動画の証拠がないと表明した。存在しないものを「ない」と証明するのは本来難しいが、本件では、確認を求めた主体がそろって否定的な結果を返した点に重みがある。専門家はこれを、古典的なモラルパニック(社会的不安の増幅)の事例と位置づけている。

なぜ広まったのか警告が媒体になる

通常のデマと違い、この噂の主な運び手は「信じた人」ではなく「心配した人」と「警告した機関」だった。警察や学校の注意喚起は善意のものだが、その文面自体が「そういうものが存在する」という前提を広めてしまう。著名人の発信や報道の見出しも同じ働きをした。画像の強烈さも重要で、説明がなくても一目で「危険そう」に見える顔が、言語を越えてコピーされ続けた。善意の拡散が噂の寿命を決めた事例である。

横断比較スレンダーマン、睡眠実験との対比

スレンダーマンは、創作のキャラクターが実在の事件と結びつけられて社会問題化した。モモは逆に、実在の美術作品の画像が切り取られ、存在しないキャラクターとゲームが後から与えられた。ロシアの睡眠実験とは、「実在する」という誤解のまま国際的に流通した点が共通する。三件に共通するのは、真偽の判定そのものより、「本当かもしれない」という状態が長く保たれること自体が、伝承の燃料になるという点である。

06出典・参考文献

← CASE-043 ロシアの睡眠実験CASE-045 人面瘡 →