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CASE-080 ― ネット発祥

近畿地方のある場所について

背筋によるモキュメンタリー形式のホラー小説。失踪した友人が調べていた「近畿地方のある場所」にまつわる記録を、雑誌記事や投稿の抜粋として集積する体裁で、断片が一つの場所へ収束していく。2023年のカクヨム連載から書籍化・映画化へ広がった。

01 ― 概要

地域近畿地方
起源2023年(カクヨム連載)
拡散の経路小説投稿サイト / SNSでの拡散 / 書籍 / 漫画 / 映画
現況書籍化・漫画化・映画化まで到達したWeb発ホラーの代表作。「本当にありそう」という実話風の受容や、舞台の実在地探しが繰り返し話題になる
来歴の確かさ作者・発表の場・時期がすべて特定できる。背筋が小説投稿サイト「カクヨム」に、2023年1月28日から4月20日にかけて全34話を連載したフィクションであり、作品としての来歴は確かである。作中に描かれる「ある場所」や事件は作品上の設定で、地名は伏せ字にされており、実在の場所や事件との対応は公式には示されていない
テーマモキュメンタリー、伏せ字、場所
関連する話杉沢村伝説 / きさらぎ駅 / 心霊スポット

02伝承の内容

『近畿地方のある場所について』は、作家・背筋が2023年に小説投稿サイト「カクヨム」で連載した、モキュメンタリー形式のホラー小説である。語り手であるライターの「私」は、消息を絶った友人の編集者・小沢を探すため、彼がまとめていた原稿「近畿地方のある場所について」の資料を公開し、情報提供を呼びかける、という体裁で物語が始まる。

集められる資料は多様である。オカルト雑誌の記事、読者からの投稿、インタビューの記録、ネット掲示板の書き込み、子ども向け番組や絵本にまつわる記録など、出所も時代もばらばらの断片が並ぶ。一つひとつは独立した怪談や噂話に見え、それでいて実在の資料と見分けがつかない質感で書かれている点が、この作品の大きな特徴である。

読み進めるうちに、断片同士に奇妙な共通点が浮かび上がってくる。繰り返し現れる言葉、似通った境遇の人物、そして特定の地域への言及。やがてすべての記録が、地名を伏せ字にされた「近畿地方のある場所」へ収束していくことが示される。読者は、資料を読み解く編集者と同じ位置に立たされ、自分でつながりを見つけてしまう。

単行本では、巻末に開封をためらわせる袋とじの資料が付けられるなど、読むという行為自体を物語に組み込む仕掛けが加わった。作品は書籍化を経て漫画化され、2025年には映画化されて、興行収入15億円を超えるヒットとなった。ネット連載発のホラーが、大規模なメディアミックスへ到達した代表例である。

03伝播と変遷

2023年1月28日
小説投稿サイト「カクヨム」で第1話が投稿され、連載が始まる。
2023年4月20日
第34話(最終話)が投稿され、連載が完結する。
2023年8月30日
KADOKAWAから単行本が刊行される。巻末には袋とじの資料が付けられた。
2023年11月27日
碓井ツカサの作画によるコミカライズが、『月刊コミック電撃大王』2024年1月号から連載開始となる。
2024年
宝島社『このホラーがすごい! 2024年版』で国内編第1位となり、紀伊國屋書店『キノベス!2024』でも8位に入る。
2025年7月25日
角川文庫から文庫版が刊行される。単行本とは内容が異なる版として作られた。
2025年8月8日
映画版が公開される。白石晃士監督、菅野美穂・赤楚衛二主演。興行収入15.6億円を記録した。

バリエーション

文庫版2025年に角川文庫から刊行された文庫版は、単行本とは内容が異なる版として作られた。同じ題名で中身が違うという仕掛け自体が、作中の「資料」の不穏さと重ねて受け止められた。
コミカライズ碓井ツカサの作画で、『月刊コミック電撃大王』2024年1月号から連載。文字資料の集積という原作の形式を、視覚表現へ翻案している。
映画版2025年公開。白石晃士監督、菅野美穂・赤楚衛二主演。失踪した編集者が残した調査資料を、同僚の編集者とライターが引き継いで追う構成に再編された。

04確認できること・できないこと

確認できる事実

  • 背筋が小説投稿サイト「カクヨム」に、2023年1月28日から4月20日まで全34話を連載したフィクションであること
  • 2023年8月30日にKADOKAWAから単行本が刊行され、『このホラーがすごい!2024年版』国内編第1位となったこと
  • 2025年8月8日に映画版(白石晃士監督、菅野美穂・赤楚衛二主演)が公開され、興行収入15.6億円を記録したこと
  • 作中の地名は伏せ字で処理されており、実在の場所との対応は公式には示されていないこと

確認できない部分

  • 作中の事件や怪談に、実在のモデルがあるかどうか。作者は対応関係を公表していない
  • 読者の間で候補に挙がる「ある場所」の実在地の特定。公式の裏づけはない
  • 連載の時点で、どこまで書籍化や映画化を見据えた設計だったか

後付けとみられる脚色

  • 読者の間で「ある場所」の実在地を特定しようとする考察や、候補地を訪ねる動きが起きたが、公式に対応する場所は示されていない
  • 映画版で加わった編集者とライターの人物設定や物語の展開は、原作小説にはない映画化に伴う要素である

05AI分析

社会的背景場所への不安と心霊スポット文化

作品が扱うのは、ダムや団地、山あいの集落といった、高度成長期の開発の痕跡が残る風景である。過疎化や廃墟化が進む地方の場所に「何かある」と感じる感覚は、心霊スポット巡りや怪談の長年の蓄積の上にある。また作中には、心霊スポットへ踏み込む配信者やネット掲示板など、現代の情報環境そのものが素材として取り込まれており、怪談が流通する現場の姿が、2020年代の読者の日常と地続きになっている。

科学的視点つながりを見つけてしまう認知

この作品の恐怖を駆動するのは、ばらばらの情報に共通点を見出してしまう人間の認知の働き、いわゆるアポフェニアである。伏せ字にされた地名は、読み手の想像が補完することで、かえって実在感を増す。作中の編集者が資料の山から「ある場所」を浮かび上がらせる過程は、読者自身の頭の中でも同時に起きる。超常現象の実在ではなく、「証拠を集めれば真相に届く」という調査の形式そのものが信憑性を生む仕組みが、ここでは意図的に利用されている。

なぜ広まったのか連載、SNS、紙の仕掛け、映画

カクヨムの連載は無料で読める入口となり、断片形式はSNSでの部分的な共有や、考察の投稿と相性がよかった。書籍化では、巻末の袋とじという紙の本ならではの仕掛けが話題を呼び、『このホラーがすごい!2024年版』国内編第1位の評価が後押しした。さらに文庫版では単行本と内容を変えるという異例の展開があり、2025年には白石晃士監督の映画が興行収入15.6億円のヒットとなった。媒体ごとに形を変えて届く設計が、拡散を持続させた。

横断比較場所の伝承の系譜

「実在しそうな場所」をめぐるネット伝承としては杉沢村伝説が先行する。杉沢村は投稿者を特定できないまま伝承化し、実在の集落がモデルと誤解される事態まで起きた。一方、本作は作者と発表の場が明確なフィクションでありながら、読者の間で「ある場所」の実在地探しが起きた点で、その逆の現象を見せている。きさらぎ駅の「実話らしい形式」を受け継ぎつつ、伝承の生成過程そのものを作品の主題にした点が新しい。

06出典・参考文献

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